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丹波の黒豆は、味の面でも健康面でも優等生 有馬温泉で味わうA級グルメ

【 篠山藩主が伝えた丹波の黒豆の味 】

10月5日に丹波篠山の黒枝豆の販売解禁が報じられると、そのニュースは関西一円を駆け巡った。篠山(兵庫県)には、古くから黒豆という特産物がある。黒豆とは大豆の品種のひとつで、種皮にアントシアニン系の色素を含み、外見が黒色したものを指す。一般的には黒大豆と呼び、秋の恵みとして親しまれている。篠山では、この黒豆を名産品とするだけでなく、観光の目玉としても用いており、市には黒豆係まで設置しているほど。産するものが有名になればなるほど、その紛(まが)い物が生れてくるのか、それを防止する意味合いと本物の味を提供したいとの思いが重なって、篠山では解禁日まで売らないとの決まりを定めた。

丹波国において黒豆栽培の歴史は古い。江戸時代に入ってからはその記述も見られており、「丹波国大絵図」にも名産品としてすでにそれが挙げられている。

丹波地方を歩くと、こんな話を聞くことができる。丹波の黒豆を有名にしたのは、川北黒大豆だが、それが採れる川北の地に、ある時、篠山藩主が狩りに立ち寄り、庄屋宅で初めて川北の黒大豆を口にしたそうだ。庄屋・山本彌三郎が昼食に供した黒大豆の味に感激した藩主は、将軍に献上。その黒豆が直参にまで振る舞われ、評判が江戸市民にまで広まったという。江戸時代後期から明治時代にかけては、日置村(篠山)の豪農・波部六兵衛と波部本次郎によって、さらに優良な種が作られ、今の丹波黒の基礎ができたようである。

現在、全国を見渡せば、京丹波の和知黒や岡山の作州黒、北海道の中生光黒など様々な黒大豆があるが、中でも“丹波黒”の名で親しまれる篠山産の黒豆は最も評価が高く、グルメの間では垂涎の的となっている。

【 まめに暮らせるようにと、願いを込めて 】

黒豆は8月頃に花を咲かせ、10月ぐらいに鞘(さや)に実をつける。その後に実が徐々に黒くなり始め、11月半ばから12月上旬にかけて収穫される。枝豆として人気が高まるのは、黒くなる手前の10月頃。10月5日をその解禁とし、篠山の町中でイベントを催し、発売するのである。

古来より丹波は山の幸が豊富に採れる地として知られている。肥沃な土壌の上、寒暖の差が激しく、そのために良質な黒豆ができると言われてきた。篠山以外でも同一品種を栽培しているようだが、気候や風土が違うのか、篠山ほどの黒豆はできないようだ。

丹波黒は当然、大豆なので色んなものに使うことができる。その料理例として最も有名なのは、おせち料理に登場する煮豆だろう。おせち料理に黒豆の煮たものを入れるのは、一年を「まめに暮らせる」ようにとの語呂合わせ。黒豆のように日焼けするまで、まめに働けますようにとの願いも込められているらしい。

黒豆の煮方には、少しずつ砂糖を加えながら炊きあげる方法と、初めから砂糖を加え、甘い煮汁で、皺が寄るまでしっかりと煮る方法の2つがある。前者がブドウのようにツヤツヤして仕上がるのに対して、後者は皺が寄るのが特徴だ。地方によっては、長寿に見立て、皺が寄ったものを好むところもあるそうだ。また、それらとは別に料理研究家として一世を風靡した土井勝が15年をかけて編み出した調理法を使う人も多いと聞く。

篠山の町を行けば、実にこの黒豆が色んなものに使用されているかが実感できる。丹波の地酒として有名な「小鼓」を製造する西山酒造場では、焙煎した黒豆の香ばしい香りが特徴の黒豆焼酎を造っているし、創業100の小西のパンでは、名物として黒豆パンを販売している。その他、黒豆豆腐に、黒豆ソフトクリーム、それに黒豆コーヒーなんていう珍品もある。

【 黒豆はヘルシー食 】

古くから黒豆が私達の身体(からだ)にとっていいことは知られていた。江戸時代に書かれた「和漢三才図会」(日本初の百科事典といわれている)には、黒豆には腎臓の機能を高めてくれ、血液の循環をよくする。その上、水分代謝をよくし、解毒・解熱などに効果を持つと記されている。また、近年では野崎豊(ノザキクリニック院長)が生活習慣病の予防にもいいと提唱している。どうも、黒豆に含まれるアントシアニン(ポリフェノールの一種)が活性酸素を除去してくれ、血液をサラサラにすることで身体にいい効果をもたらせるようである。昔は、現在のようにその理由がはっきりわからなかったにせよ、先達が好んで黒豆を食したのも、あながちわからなくはない。

有馬温泉から車で走ること約30分、四方を山に囲まれた丹波・篠山に到着する。この地で古くから育まれてきた丹波黒(黒豆)は、味の面でも健康面でも優れた一品といえよう。食に興味を持つのなら、その昔、篠山藩主が“格別の味”と表現した黒豆を、この秋はたっぷりと味わってみてはどうだろう。

(文、曽我昌弘)

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