モノには単に価格だけではなく、なかなか手に入らないものもある。そうした組み合わせの一つが、御所坊で毎朝でお出ししている湯豆腐。
まず“たる源”さんとはどのようなお店か、ホームページがないので「京都の町名とその老舗」というサイトの たる源をご覧ください。
今、京都を代表するグルメ作家でミステリー作家で歯科医の柏井壽 先生の処女作『泊酒喝采』で御所坊を取り上げて頂いた。ある日、本が送られてきて中を見てびっくりした。私が考えていた宿のあり方をきっちり書いていて下さっていたからだった。
ただその中で唯一間違いがあった。その事はいまだに柏井先生に話をしていない。
それは「朝食に京都、たる源の器で豆腐が出てくる・・・」と書かれていたことだった。
その時、あー私が求めていたのは『たる源』という所が作っているのだと知った。色々な食器のカタログを見ても『たる源』の器は載っていなかった。そこで住所を調べてお店をたずねて行った。
そこで見た湯豆腐桶は、京都の名旅館で見たのと同じものだった。早速、注文を入れ少しづつ送ってもらった。注文したからその場ですぐ買えるものではないのだ。
もちろん京都だけに清水の舞台から飛び降りるつもりで購入を決めなければならない価格でもある。
九州唐津に洋々閣という名旅館がある(十二の宿の仲間の宿)その旅館の朝食をパスして豆腐屋で朝食を食べるのが通だという話を聞いた。
そこで知人の案内で昼食を食べに行った。
ほかほかのざる豆腐から始まりメインディシュは揚げたての厚揚げ・・・でも海で取れたウナギの塩焼も印象的だった。
各地でざる豆腐が売られているが、ここ川島豆腐が始めたという。御主人は職人気質を持ちながら新しい手法もこだわりなく取り入れる人だと思う。
その頃、丹波の黒豆で豆腐がつくれないかと考えていた。(今でこそ黒豆の豆腐はあちこちで作られているが当時はなかった)そこで御主人に豆腐の製作をお願いした。
丹波の黒豆は大豆よりはるかに粒が大きい。通常の豆腐をつくるミルでは粉砕が出来ない。
そして温かい豆乳を一気に冷まして、天然にがりを入れて加熱して凝固させる。
その設備が地元の豆腐屋では持っていなかったのだ。
今でも川島豆腐だからこそ黒豆のコクがあり、天然にがりで絹漉しのような舌触りの豆腐がつくれると考えている。これに唐津からの送料を加えると・・・たぶん日本一高価な豆腐となっている。
コストを下げる為に浮気をしようとした事がある。試しに取り寄せて親しい常連のお客様に出したところすぐにダメ出しが出てしまった。
たかが豆腐、されど豆腐・・・やっぱりわかる人の目はごまかさないと思った。
湯豆腐桶、使っていると黒ずんでくる。どうしようかと考えていた時に、ふと気が付いた。建物だったら洗い屋に頼む、たぶんアルカリ性の液体で“ササラ”を使って洗っていく。
食器という感覚から思いつかなかったが、一つ試しに洗い屋に出した。
それが見事! きれいなって帰って来た。
「ピカールある?」
若いスタッフに聞くと、皆きょとんとした顔をする。当然“ササラ”も知らない。
「知らないのか?」といつも言っている私はそれだけ年をとったのか・・・
「仏壇の所にあるやろ?」といって持って来さして洗い屋から帰って来た湯豆腐桶の銅板の部分を磨いた。
・・・老舗の寿司屋の白木のカウンターのようになった。新品よりも丸みが出て良い感じだ。
このような話をしなければ、単純に御所坊の朝ごはんは高い・・・安いとは言われないだろうけど、高い理由を知ってもらう事をしなければいけない。