多くの人々が行き交う有馬温泉の坂道。その途中、有馬里駐車場から約13分のところに『上大坊』はある。
その創業は1900年、企業などが温泉を楽しむために建てた別荘を改装し、宿屋として生まれ変わらせたことにはじまる。
また「上大坊」という名は1191年、吉野高原寺の僧である仁西上人によって建てられた十二の宿坊の一つが由来だ。この有馬温泉に点在する「〇〇坊」と名のついた宿は、同じくこの十二坊にちなんでいる。
この上大坊の自慢は、なんといってもその温泉。
もともと有馬の温泉は世界的にみても薬効が高いとされている。
地下60メートルのマントルから湧き出たその大地の恵みは海水の約2倍もの塩分を含み、冷え性や腰痛に効くと有名である。
だが、その中でもとりわけこの上大坊は「濃厚」だ。
宿の主人である堂加氏の案内で扉を開くと、もうもうと立ち込める煙でカメラのレンズが瞬く間に真っ白。
そのパワフルさをカメラ越しに実感させられた。
その浴槽や壁は赤茶色に染まっている、これは金泉という含鉄ナトリウムを含んだお湯によるもので、磨いても落ちない。
だが、手でそっと掬ってみたところ、お湯自体は透き通った色をしていることが分かる。
これはすぐそばにある天神泉源から時間をかけることなく直接引いており、酸化による色の変化が起こっていないためだ。
そしてその温度たるや、なんと驚愕の98度。
普通に考えれば人間が足を入れることすら危険な状態だが、ここに工夫がある。
お湯はそばに設置された樋を通して供給されているのだが、よくよく見ると縦に刺された木の棒を通し、ぽたぽたとお湯が浴槽へ落ちているのを見ることができるだろう。
このように、少しずつかつ断続的にお湯を足していくことで、適度な温度を保ちながら供給を行うことができるのだ。
また、見た目ではわかりづらいが、床のヌルヌルとしたような感触もなく、清潔な状態が保たれていたのにも、その気配りを感じることができた。
温泉といえば卓球。
入浴後は、遊技場で楽しく遊ぶこともできる。
利用者は年間1000人。
その効果の高さに満足した人々が、遠隔地からでもたびたび足を運んできてくれるという。
宿泊なしでも1000円で入浴可能という利用のしやすさも人気の秘密だろう。
有馬のメインストリートの中にあるというのも魅力的だ。
向かい側には先日ご紹介したポルトガルスイーツとガラス食器のお店「茶房 堂加亭」がある。
そして、その近くには「人形筆灰吹屋」も。
散歩感覚で観光を楽しみたい場合には絶好の場所といえる。(堂加亭および灰吹屋は現在休業中)
上大坊を出た後、天神泉源へと足を運んだ。
場所は上大坊のそばにある階段を上がったところ。勢いよく白い煙を噴き上げているのですぐにわかる。
近づいてみると、「シュゴッ、シュゴッ」とすさまじい音を立てて給湯装置が稼働している。
そして、周囲に立ち込めるほのかな硫黄の香り。
この力強さを間近で見せられると、その恩恵を受けるために温泉に入りたくなってしまうこと請け合いだ。
施設名:上大坊
住所:兵庫県神戸市北区有馬町1175
神戸電鉄有馬温泉駅から徒歩5分
有馬里駐車場から徒歩11分
営業時間
立ち寄り入浴:15:00~18:00
定休日:不定休